Rise As God 3

ステージに立てない2年が怖かった。

どうやって東方神起を守る?
今俺に、何ができる?


どれだけ努力しても安心できなかった。

どれだけ結果を残しても、これで大丈夫なんて思えやしなかった。



焦って、思い悩んで。



そんな俺の横でチャンミンは、どんなだったかな。

思い出せないのは、俺がチャンミンを見ていなかったからだ。



リーダーだから。

兄貴だから。



だから俺が東方神起を、チャンミンを守らなきゃって。


でもある日、肩に置かれたチャンミンの、手のひらの温もりで気がついた。

いつの間にかチャンミンは、隣に並んで俺の肩を抱き寄せてるようになってたんだ。

写真に写ったのは、上も下もない東方神起としての俺たち。



いつの間におまえはそんなふうに、大人びた顔をして笑うようになったのかな。




僕がいるじゃない。


そう聞こえた気がしたから。


あぁ、そうだな。


心で答えたら、背負ってたものが、少し軽くなったような気がした。








人気のないステージの上。

みんなが揃うまでの間、チャンミンはなぜか腹筋してて、俺はその横でそれを眺めてた。


「チャンミンいい体してるなー。カッコいいなー」


何気なくチャンミンの腹筋をTシャツの上から撫でたら


「触るな触るな」


腹筋しながらチャンミンは、面倒くさそうにそう言った。


日本に来る前から体を絞り始めて、体脂肪率が10%を切ったらしいチャンミン。

俺と違ってつい食べちゃう、なんてことがないから、ストイックすぎてちょっと心配になる。



「なぁチャンミン、なんでそんなに体絞るんだよ。無理したらツアー中に体力落ちるぞ」

「見せ筋知らない?ファンサですよ、ファンサ」

「ファンサもいいけど、ほどほどにしとけよ」

「大丈夫ですよー」



最後の1回を終えて、チャンミンは長い手足を投げ出すように大の字になって床に寝転んだ。



「チャンミン、最近よくステージで寝転んでるよな」


そう言って俺は、チャンミンの横に寝転んで、ドームの天井を仰いだ。


「んー、ユノとおんなじものが見えるかなーと思って」

「え?」

「見えるような気がするだけですけど」


そう言って笑ったのは、照れ隠しか。

俺はチャンミンの言葉を聞いて、正直少し戸惑った。

いつも何気なく見ていたけど、そんな意味があったなんて思いもしなかった。


俺を真似て見上げた天井。


そこにおまえは、何が見える?

俺はいつもこれから立つステージを感じながら、いろんなことを思い出したり考えたりする。

それはどれも、東方神起の歴史と未来。


「チャンミンはずっと、俺とおんなじものを見てるじゃん」

「そう?」


だからおまえは、俺の横にいるんだろ?


「たぶん俺とチャンミンだけが、同じものを見てたんだ。今ならそう思える」


だから今、東方神起は俺とおまえの2人なんだ。


「そっか」

「うん」


俺とおまえ。

きっと同じ未来が見えてる。

だから俺たち2人だけが、今もここにいるんだ。


「でも、もうすぐ会えなくなるな。せいせいするんじゃないのか?」

「そうですねー。10年以上も一緒にいたから、ユノが行ったら1人を満喫します」

「あーそーかよ。せいぜいキュヒョンやミノと仲良くやれよ」

「そうしますー。あー楽しみだなー」

「もっ!おまえ嫌い!」


ほんとこいつ意地悪だ。

ムカついて隣からゲシゲシ蹴ったら


「あーこらこら。蹴るな蹴るな」


チャンミンは容赦なく足で押して俺を遠退けた。

何すんだ。ひでーやつ。


「なぁチャンミン。俺、泣いちゃうかな」


もちろん泣くつもりはない。

笑ってバイバイするつもりなんだけど。


「泣けばいいんじゃない?待っててって言えばいい。たまには甘えた方がいいです」

「カッコ悪いじゃん」

「なんで?甘えられるのも嬉しいモンですよ」

「そうかな」

「そうです」


最近俺はよくチャンミンに甘えるけど、もしかしておまえも嬉しかったりするのかな。

そう考えたら、ちょっと胸の奥がくすぐったかった。






毎回毎回ステージは、今まで以上に楽しかった。

いいものを作ることに必死だったこれまでと、やれるだけの事はやり尽くしたと思える今と。

もう出し切るしかなかったから、余計な事を考えないでいられたのかな。

なんだかとても、自由な気がした。





そしてラス前のステージで、とうとう俺は堪えられなくなって泣いた。

なんだかもう、こんなに幸せでいいのかなって思った。


念願だったドームの、会場いっぱいに広がるレッドオーシャン。

こんなにたくさんの見送ってくれる人がいて。


そして何よりも、今度はちゃんと、帰って来るからと約束できたことが。

それが俺は、一番嬉しいんだ。







また待たせることになるけど。

しばらく会えないけど。



それでも待っててくれるかな。

お帰りって、言ってくれるかな。



ホントは寂しいんだ。

ずっとステージに立ってたいんだ。



何度も待たせてごめんね。

でも絶対帰って来るから。









だからその日まで、ここで待っててくれますか。









拳を握りしめて、やっとの思いで立ってる俺の肩に、優しく触れたチャンミンの手のひらの温もり。

泣いてもいいよって。

おまえが甘やかすから、俺はダメになりそうで顔を上げることもできなかった。



あー、やっぱりおまえがいてよかった。



おまえと東方神起でいられて、本当によかった。












そしてその夜。

打ち上げの真っ最中にチャンミンが、なんでもないことみたいに言った。





「僕、義務警察を受けることにしました」




本家「東方神起~Red Ocean of eternity~

Rise As God 2

俺の入隊時期で一番問題になっていたのは、日本でのデビュー10周年をどうするかだった。

それについては早い段階から、先に入隊を済ませてしまおうという方向でスケジュールが調整されていた。

TREEのライブも本来は、兵役前の最後のツアーになるはずだった。

と言っても、予定が変わるのもある程度想定されていたし、案の定入隊時期はどんどんずれ込んで行った。


でも結局、もうこれ以上引き伸ばせないところまできたら、兵役前ラストのツアーとしてちゃんと挨拶できることになったし、日本での10周年をお祝いする事も決まった。


「何事もケジメが肝心だ。だからこれでよかったんだよな」


奥歯に物が挟まったようなこの1年を思えば、延び延びにはなったけどちゃんと自分たちで区切りをつけられるのはスッキリする。

だからそう言った俺にニッコリ笑ったチャンミンは、きっと同じ気持ちに違いなかった。





そんなわけで俺は今、コンビニの冷蔵庫の前で愕然としているわけだ。


「…ビールってこんなにあるのか」


コンビニなめてたわ。

適当に見繕って買えばいいとか思ってたけど、まさかこんなに種類があるとは思わなかった。



兵役前最後のツアーの中、今日はチャンミンの誕生日だ。

お互いの誕生日が近いせいで、プレゼントのやり取りはしないことになってたけど。

でもなんだか今年の誕生日は特別な気がして、何かプレゼントをしたくなった。

そしてコンビニでチャンミンの好きなビールを買うという名案を思いついたまでは良かったんだけど。


「まぁいいや。選ぶのめんどくさいから全部を一本ずつ買おう」


どうだこの決断力。さすが東方神起のリーダーだ。

納得して俺は、チャンミンの喜ぶ顔を想像しながら買い物カゴ一杯にビールを詰め込んだ。





「…なにこれ」


ホテルの部屋に戻って、テーブルの上にビールを並べ続ける俺を見ながらチャンミンが言った。


「これ?誕生日プレゼントっ」


どうだ、驚いただろ?チャンミンがビール好きなのは知ってるんだぞお兄ちゃんは。

満足気にチャンミンを振り返ったら、


「選ぶのめんどくさいから全種類買った?」


図星を指されて、俺は思わず慌てた。


「て、適当じゃないぞっ。チャンミンがどれ好きかわかんなかったからっ。いろんな味が楽しめていいかなってっ」

「はいはい冗談ですよ。ありがとうございます」


軽くあしらうみたいな言葉のわりに、チャンミンの笑顔は優しかった。





「ねぇ、なにこれ」

「なにが!」

「今年は僕の年?」

「…もうっ!恥ずかしいから聞くなよ!」


テーブルにビールを並べ終わったあと、俺はチャンミンにメッセージカードを渡すことにした。

でも、いざ渡す段階で死ぬほど恥ずかしくなったから、結局カードを押し付けて逃げるようにベッドに潜り込んだんだ。


今年はおまえの年だ!


我ながら凄いセンスだと思う…。


「恥ずかしいなら渡さなきゃいいでしょ」


チャンミンの呆れたような声が、すぐそばで聞こえる。


もうっ!あっち行けよっ!


そう思う反面、黙ってチャンミンがそこに立ってたから。



すぐそばに、チャンミンがいるのに。

確かに気配を感じるのに。



真っ暗なせいか、何を話しても布団の中からなら、恥ずかしくないような気がした。


「チャンミン、あのさ…」


だからそう切り出した時から、俺は普段言えないことを口にするつもりだったのかもしれない。


「俺さ、ずっとチャンミン見てきたんだよ」


泣いてる時も。

喜んでる時も。

笑ってる時も、そして怒ってる時も。

どんな時もずっと一緒にいて、一番そばで見てきた。


「ずっと見てきてさ、俺がいない間も今のチャンミンなら、東方神起を守ってくれると思えたんだ」


俺の背中に隠れてた弟は、いつの間にか俺と並んで東方神起を背負って立ってたから。


「だから頑張れ」


俺がいなくても。


「僕、成長した?」

「したよ。もう何も心配してない。1年間、普段やれないようなことたくさんやってみろよ。ずっと東方神起だったし、これからももちろん東方神起なんだし。特別な1年間だと思ってさ」


ベッドが軋んで、チャンミンが俺のそばに腰を下ろしたのを感じる。


「いちごかぶったり?」

「あれはどうにかしろ。もっと可愛くできないのか」

「いやいや、あれはかっこいいいちごなんだって」

「いちごはかっこよくなくていい。ってゆーかかっこよくないだろあれ」

「文句言うな。それより、ビール飲みたいんだけど」

「飲めばいいだろ。たくさんあるんだし」

「は?まさか可愛い弟に一人でビール飲めと?誕生日に?」


あーうるさい。

今更布団から出られるわけないだろ。

どんだけ恥ずかしいこと言ったと思ってるんだ。


「ユノは冷たい。こんな日に一人でビールなんてありえない。僕だったらユノにそんな思いは絶対させない。あー寂しいなぁ。誕生日に一人でビールかー」

「わーかったわ!飲めばいいんだろっ!飲めばっ!」


大声でわめきながら勢いよく布団をめくり上げたら


「一緒にビール飲も?」


そう言って優しく笑うチャンミンの顔が、すぐ近くにあった。





つづく 本家「東方神起~Red Ocean of eternity~

Rise As God 1

10年以上も一緒にいるのに、わからないことってあるもんだな。

俺はてっきりおまえが、それはそれで楽しむもんだと思ってたんだ。









「なに?いちご食べたいの?」

「は?なんで?」

「いちご見てるから」



言われて俺は、テーブルの上のiPadを振り返った。

そこには、いちごの被り物姿でキュヒョンと楽しそうに踊っているチャンミンが映し出されていた。



「いちごは食べたいけど、これは関係ないかな」



だって、どう見ても美味そうには見えない。



「じゃあなに、やっぱチャンミンのが可愛いなとか?」

「いや、どっちも可愛くはないだろ」



せっかくのいちごが、これじゃギャングじゃないか。

いちごは可愛くしてもらわないと困る。



とは言え、チャンミンはどうすれば面白いのかをよく知ってるから。

だからこういうふざけたコンセプトの時こそ、真面目に全力でやり切る。

楽しませることが頭から抜けない俺と違って、チャンミンは自分も本気で楽しむんだ。

だからこのいちごも、これはこれで正解なんだろう。


「じゃあなんでそんなの見てたの?」


チャンミンに聞かれて、俺は上手く答えられない。


「別に。ただなんとなく見てただけ」

「ふーん…」


納得したのかしていないのか、チャンミンはそれ以上聞かずに俺のそばを離れた。

だって、説明のしようがなかったんだ。

ただ本当に、楽しそうだな、そう思っていただけだから。






兵役、っていうのは韓国で芸能人やってれば否が応でも頭から離れない。

一番大事なのはタイミングで、もちろんそれが自分自身ではなく会社の都合なのは言うまでもない。

特に俺たち東方神起の兵役は、スケジュールが二転三転した。




俺はいつ行けばいい?



チャンミンはいつ行けばいい?





そして一番の問題は、東方神起はたった二人しかいないということ。

どちらか片方が兵役に行っている間、残された方はグループではなくソロでしか活動ができない。

つまり兵役は、東方神起というグループがどれだけの期間不在になるかということだ。




「ユノが兵役に行って、1年チャンミンがソロ活動をこなし入隊。1年間2人の不在の後、ユノが除隊して1年間のソロ活動。東方神起というグループの不在期間は、トータル3年。これがベストだろう」




事務所の方針がそう決まったのは、東方神起が韓国でのデビュー10周年を迎えた頃だった。

方向性が固まるまでの間、俺はかなり精神的に不安定だったし、それは自分でも自覚していた。

もちろんチャンミンは敏感に察知して、心配していたのもわかっていた。


「またファンを待たせることになるんだな」


分裂騒動の後活動停止を余儀なくされ、その間俺たちはファンを待たせた。

なのにまたファンを待たせなければいけないって考えると、そりゃ溜息もつきたくなる。


「でも今回は帰ってくる時期だってわかるわけだし。前とは事情も全然違うじゃない」


チャンミンはソファで寝転んだままそう言った。

またゲームやってんのか、このオタクめ。


「まぁ、俺が行った後の一年はキュヒョンたちがいるし、楽しく仕事できるだろ」


俺がそう言ったら


「そうですねー。コラボだのなんだのって色々企画上がってるし。楽しいんじゃないですかね」


チャンミンはゲームに目を向けたまま、大したことでもないようにそう言った。





チャンミン。

俺がいない一年を、おまえはどんなふうに過ごすのかな。



俺はな、みんなに囲まれて、ずっと笑っていて欲しいと思うんだ。



でもそう思う反面、結局寂しいのは俺の方じゃないか、とも思う。

置いてく俺が寂しいなんておかしいかな。

俺がこんなじゃダメだよな。

だから口に出しては言わない。

おまえがいないと寂しいなんて、絶対言わないからな。






そう決心はしたものの、入隊の予定は何度も先延ばしになった。

覚悟を決めるたびに延期になって、どんどん気持ちがすり減って。



もういっそ、明日からだと誰か言ってくれないかな。

そんなふうにさえ、思うようになっていった。

本家「東方神起~Red Ocean of eternity~
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